皆さん、よろしくお願いいたします。株式会社EVAセラピューティクス代表取締役の尾﨑拡と申します。
私たちは、肺の発達していない新生児(未熟児)の命を救うため、世界初の「超換器(腸呼吸)」と呼ばれる新しい原理の医療機器・システムを開発している東京科学大学(旧東京医科歯科大学など)認定のバイオベンチャーです。2021年に設立した会社ですが、このイノベーションの基盤となった「腸呼吸(超呼吸法)」を開発した武部隆教授は医療界で広く知られており、昨年「肛門から酸素を含む液体を投与し、腸を通じて呼吸(酸素摂取・二酸化炭素排出)をさせる」という驚くべき発明によって、イグノーベル賞の生理学賞を受賞しました。
現在、日本国内では、生まれてきた赤ちゃんの約1%にあたる年間約1.5万人の新生児が、肺が十分に発達していない、あるいは不完全な状態で開かないなどの理由で呼吸不全に直面しています。特に、体重が極めて軽い状態で生まれる「超低出生体重児(超未熟児)」の場合、そのうち約50%が死亡するか、あるいは一命を取り留めたとしても脳性麻痺などの重度障害が残るという非常に深刻な医療課題(アンメットメディカルニーズ)が存在しています。
現状、これらの赤ちゃんに対しては、肺に空気を送る人工呼吸器を装着して治療を行います。しかし、生まれたばかりの赤ちゃんの非常にデリケートな肺は、人工呼吸器の圧力や高濃度の酸素にさらされると容易に傷ついてしまいます。
特に、血中の二酸化炭素レベルが上昇した際に、それを下げようとして人工呼吸器の出力を上げたり酸素濃度を高めすぎると、それが副作用となって「未熟児網膜症(失明のリスク)」や「脳への深刻なダメージ」を引き起こすというジレンマを抱えていました。肺を守りながら、安全に全身へ酸素を届ける手段が、これまでの新生児医療にはありませんでした。この限界を突破するのが、肺ではなく「腸」を使って呼吸を補助する私たちの腸呼吸テクノロジーです。
私たちが開発している「超換器」システムは、人間の呼吸生理学的メカニズムを腸で再現するものです。
使用するのは「パーフルオロデカリン(PFD)」と呼ばれる極めて不活性な液体です。このPFDは、非常に大量の酸素を溶け込ませることができるという物理的特性を持っており、元々は約30年前に米国で人工血液のベースとして開発され、人体への安全性が高く評価されていた物質です。
このPFDを、病院内に導入する当社の機器で5〜10分間ほどブクブクと酸素化(バブリング)させ、酸素を限界まで含んだ状態にします。そして、カテーテルを用いて肛門から赤ちゃんの直腸・大腸へ注入し、一定時間貯留させます。
直腸の粘膜には血管(直腸静脈)が非常に豊富に走っています。腸内に留め置かれた酸素たっぷりのPFDから、直腸の静脈を通じて酸素が自然に血中へと移行し、同時に血中の不要な二酸化炭素がPFDへと排出されます。注入する量は体重1kgあたりわずか10cc程度で、3kgの赤ちゃんであれば約30ccです。これを4〜6時間に1回入れ替えるだけで、肺を一切傷つけることなく全身の酸素補助を続けることができます。
すでに私たちは、マウスやラット、さらには呼吸不全を起こさせたブタを用いた大型動物実験において、この酸素含有PFDの投与により血中の酸素濃度が大幅に上昇し、二酸化炭素が劇的に減少して呼吸状態が改善されるという科学的エビデンスを実証しています。ブタの実験で確認された「酸素分圧が5〜10mmHg上昇し、二酸化炭素分圧が数mmHg減少する」という効果は、安静にしていて酸素消費量の少ない新生児にとって、生命を維持し副作用を回避する上で十分な医学的効果(臨床的意義)を持っています。
何より、このPFD液体自体は全身に吸収されることなく、入れたままの形で安全に大腸から排出されるため、体内への移行がありません。昨年私たちは、健康な成人男性を対象とした安全性試験(フェーズ1A臨床試験)を完了し、25ccから最大1,500ccまで大腸に注入しても血中に全くPFDが移行せず、極めて安全であることをヒトの臨床でも完全に証明しました。
私たちのビジネスモデルは、酸素を運ぶキャリアとしてのPFDを医療機器として、そして酸素を含ませた製剤を医薬品としてパッケージ化し、医療現場に提供するものです。
日欧米の主要国における新生児の呼吸不全患者数は年間約10万人と推計されており、私たちは1回の治療コース(1コース)あたりの価格を100万円程度と想定しています。未熟児の命を救い、失明や脳障害といった生涯にわたる重度障害を防ぐことができる価値を考えれば、保険償還も含めて医療経済的に十分に見合う適正な価格設定であると考えています。これによって、グローバルで約1,000億円規模のイニシャル市場をターゲットとしています。
現在、私たちは成人での安全性を確認したステップを踏み、名古屋大学病院との新生児を対象としたパイロットスタディ(医師主導臨床研究)の準備を絶賛進めています。これと並行し、酸素を含んだ状態のPFDの安全性試験も計画しており、これらの臨床開発を進めるためにシリーズAラウンドとして2.5億円の資金調達活動を展開しています。
今後のロードマップとしては、新生児向けの臨床データを日本・米国で確立したのち、大人の救急救命(999)時の一時的な呼吸補助への適用を進めます。事故や災害などで肺が潰れて呼吸ができない患者に対し、救急車内で1時間だけ腸から酸素を送り込んで脳死を防ぐといった用途です。
さらに、腸という局所に直接酸素を届けることができる特性を活かし、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の治療薬としてのパイプライン開発も視野に入れています。将来的に、現在大学で開発を進めている「PFDを腸内で循環させる専用機器」の実用化が完了すれば、体外循環装置であるECMO(エクモ)のような非常に大がかりで高リスクな装置を使わずに、腸呼吸だけで大人の重症呼吸不全を長期管理できる「ECMO代替システム」としての巨大な医療革新(アップサイド)を狙うことができます。
既存の医療技術では救いきれなかった赤ちゃんの未来を救い、世界中の呼吸器不全患者を救うための私たちの画期的な治療インフラに、皆様のご支援と応援をよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
コメンテーター(福田氏):尾﨑さん、非常に社会的意義が大きく、大手の製薬・医療機器メーカーがなかなか参入しにくい新生児の希少・重症領域に真摯に向き合われている素晴らしいプレゼンテーションをありがとうございました。肺に頼らず腸から酸素を吸わせるというアプローチは、イグノーベル賞の話題性以上に、物理的・解剖学的に非常に理にかなっていると理解できました。
質問ですが、この新生児の呼吸不全という疾患において、一度治療を行って肺が成長した後に、成長した子どもがまた同じような呼吸の病気を再発したり後遺症に悩んだりするようなことはあるのでしょうか。それとも、生まれてすぐの初期の危機をこの超換器で乗り切れば、その後は健全に成長していけるものなのでしょうか。
尾﨑氏:ご質問ありがとうございます。大変重要な点です。結論から申し上げますと、生まれた直後の最も肺が未熟で脆弱な「最初の期間」をこの超換器で安全に乗り切ることができれば、赤ちゃんの成長とともに肺は自律的に発達し、その後は通常の健康な子どもたちと全く同様に健全に成長していくことができます。
多くの赤ちゃんは生まれたときに肺が十分に開かないため、やむを得ず人工呼吸器を装着しますが、その調整が非常に難しく、酸素を上げすぎることによる「未熟児網膜症(失明リスク)」や脳へのダメージといった副作用が一生残る後遺症となっていました。私たちのシステムで最初の最もデリケートな数日間〜数週間の期間を「腸から呼吸を補助」してあげることで、肺を傷つけることなく自然な成長を促し、後遺症なく元気に退院させることができるようになります。ですので、この最初の急性期さえ乗り越えれば、その後に再発することはありません。
福田氏:なるほど、初期の最もデリケートな期間を傷つけずに保護して成長を待つためのシステムなのですね。これによって一生の障害を回避できるのであれば、1コース100万円という価格は十分に安いと評価されるはずです。
もう一点、グローバル展開を掲げられていますが、日本人と欧米人の体格や大腸の大きさなどの「個体差」が、このPFDの投与量や酸素吸収効率に影響を与える懸念はないのでしょうか。
尾﨑氏:その点につきましては、西洋人と日本人の個体差による影響はほとんどないと考えております。
なぜなら、私たちのシステムにおいて薬効成分(アクティブ・イングレディエント)として働くのは、どこまでも「酸素そのもの」だからです。酸素の吸収プロセスはシンプルな静脈への移行によるものであり、個体差による生理的差異はありません。また、キャリアとなるPFD(パーフルオロデカリン)は一切体内に吸収されず、入れたものを取り出すだけのキャリアに徹するため、体質による代謝やアレルギーといった個体差の問題が発生しにくいのです。
したがって、日本で取得したデータやプロトコルは、ほぼそのまま米国や欧州の臨床開発にも適用可能であり、グローバル市場(10万人規模)への進出は極めてスムーズに行えると確信しております。
福田氏:なるほど、キャリアが吸収されない物理的な移行装置だからこそ、人種や個体差の影響を受けずにグローバルで同一の製品が展開しやすいわけですね。
将来的には救急救命やECMO(エクモ)の代替、大腸炎の治療薬などへの応用構想もあるとのことですが、まずは現在準備中の名古屋大学での医師主導治験を突破し、製品の実用化に向けて進まれることを心より応援しております。ありがとうございました。
尾﨑氏:心強いフィードバックをいただき、ありがとうございます。治験を確実に突破し、一人でも多くの命を救えるよう尽力してまいります。