私自身、この会社を立ち上げる前は鉄道会社(JR東日本)に13年間在籍し、技術開発や実際の現場で車掌や運転士の現業業務を経験してきました。私の社会人1年目となった2005年は、JR福知山線の脱線事故やドイツでの脱線事故という、世界の鉄道史上でも極めて痛ましい事故が重なった年でした。また、東京へ異動した直後には東日本大震災に直面しました。
震災からの復旧後、地域の方々に「鉄道が戻ってきてくれて本当によかった」と温かく迎えていただいた時、私は身に染みて実感しました。私たちが普段「当たり前」だと思っている交通や移動サービスは、決して当たり前にあるものではなく、多くの精緻な技術や高度な事業スキームの上に成り立っているのだと。
同時に、急速な人口減少や新技術の台頭が進む日本において、バラバラに運営されているモビリティがもっとデジタルで連携し、無駄のない強固なネットワークを作ることができれば、より素晴らしい社会が作れるのではないかと考えました。2016年頃から海外の国際交通カンファレンスに足を運ぶ中で、「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」という言葉に出会いました。自動車、鉄道、バス、航空など、日本が誇るあらゆるモビリティをデジタルの世界でシームレスに連携させ、次の100年を支える日本の新たな基幹産業を自分たちの世代で構築したい。その強い決意で2018年に起業しました。
日本国内には、鉄道会社が約200社、バスやタクシー会社を含めると数万社もの交通事業者が存在します。そして、それぞれの事業者が全く別々の、かつレガシーなシステムを使用しています。一社単位では最適化されていても、それらを統合しようとするとフォーマットの違いや接続方法の非互換性により、データ連携はほとんど進まないのが実態でした。
この課題を突破するため、私たちはこれまでに約5億円の技術開発投資を投入し、多様なモビリティデータをクレンジング(綺麗に整理)し、統合・変換・蓄積・出力する「データ統合基盤」を構築しました。一見非常に地味な技術ですが、この堅牢なインフラ基盤があるからこそ、どのような事業者のデータであってもシームレスに綺麗に繋ぐことができます。ロケットを発射する際、発射台がぐらついていては宇宙へ飛ぶことはできません。私たちのデータ基盤は、日本の都市交通DXを打ち上げるための、最も揺るぎない発射台なのです。
1つ目は、蓄積されたデータを統合・可視化して分析するツール「SeeMaaS(シーマース)」です。
自治体の都市計画や公共交通の担当職員の方々は、「住民の移動ニーズに合わせた交通網をどう作るか」「地域バス網をどう再編するか」という課題に直面していますが、従来は各事業者から取得したデータの形式がバラバラで、現状の正確な把握すら困難でした。
私たちは、沖縄県石垣市や石川県金沢市などにおいて、市役所や交通事業者と作業部会(コンソーシアム)を作り、鉄道、バス、シェアサイクルの利用データやICカードデータ、さらには匿名化された個人データをこのSeeMaaS上で統合し、マップ上に可視化しました。
これにより、街づくりにおいて「どこに交通ハブを設置し、どの路線に連結バスを投入すべきか」といった最適な施策をデータに基づいて瞬時にシミュレーションできるようになりました。従来、紙のデータ収集やコンサルへの委託で半年から1年近くかかっていた調査・分析のリードタイムを劇的に短縮し、データドリブンな交通政策のPDCAを即座に回すことが可能になりました。現在、このデータを活用した社会インフラ特化型の生成AI展開も進めています。
2つ目は、ユーザー(移動者)向けのLINEミニアプリを活用したデジタルサービスです。
単なる経路検索や電子チケット販売にとどまらず、ユーザー同士がLINE上で繋がってスケジュール調整やリマインドを簡単に行えるコミュニケーション機能を実装しています。「みんなで部活の遠征に行こう」「グループでサウナへ行こう」といった時、経路の検索から、誰が運転して車を出すかの調整、LINE連携でのスケジュール共有などをワンストップで解決し、移動に付随する不便を解消してコミュニティ内のスムーズな移動体験を創出しています。
現在、多くの自治体から取引をいただいておりますが、日本国内の交通データ基盤領域において、ここまで地に足のついた実装を進めているプレイヤーは当社のみであると自負しています。
今後のさらなる成長に向けて、私たちは2026年10月頃までに、エクイティ(株式)3億円、デッド(融資)2億円の計5億円規模のシリーズA資金調達を計画しており、現在多くの投資家・金融機関様と対話を進めています。
調達した資金の主な使途は、プロダクトの技術開発の継続と、セールス組織の強化です。私たちは現在15名ほどの精鋭チームですが、製品パッケージが整った一方で、自治体や交通事業者からの引き合いがあまりにも多く、営業活動や現地での関係構築を行うマンパワー(人員)が決定的に不足しています。
この社会インフラをデジタルデータでアップデートしていく壮大なミッションに共感いただけるエンジニア、営業メンバー、そして事業連携を模索される自治体・事業会社・投資家の皆様からのご連絡を心よりお待ちしております。
コメンテーター(藤木氏):日高さん、素晴らしいプレゼンテーションをありがとうございました。4年ほど前にお会いさせていただいて以来になりますが、当時からMaaSというビジョンにぶれずに取り組まれている姿に敬意を表します。
当時、2018年頃は「MaaS」や「スマートシティ」という言葉が一種のバズワードとして非常にメディアでもてはやされていました。一方で最近は、VC業界も含めて少しこのワードを聞く機会が減ったようにも感じています。交通DXの最前線にいる日高さんから見て、現在のMaaS市場のリアルトレンドはどのようになっているのでしょうか?
日高氏:藤木さん、ご無沙汰しております。トレンドのご質問、非常に本質的だと思います。
おっしゃる通り、2018年頃はスマートシティという概念が先行し、トヨタ様のウーブン・シティ構想やGoogle様のカナダでの都市開発などがあり、日本でも「スマートシティやMaaSについてコンサルしてほしい」「未来の交通について記事を書いてくれ」といった、ある種ふわふわしたコンサルティングの依頼が殺到していました。
しかし、コロナ禍を経て人の移動が一時的に大きく制限され、交通事業者が経営的打撃を受けたことで、トレンドは大きく変わりました。ブーム(ハイプサイクル)が一巡して落ち着いた結果、現在は「コンサル」ではなく「実際のデータ基盤プロダクトの導入」や「具体的なアプリシステム開発」という、地に足の着いた「実需」のフェーズへ移行しています。ワクワク感としての熱気は落ち着いたかもしれませんが、現場での社会実装は今が最も進んでいます。当社としても、過去で今が一番忙しく、引き合いが絶えない状態です。交通という社会インフラは本来ふわふわしたものであってはなりませんので、ブームが去って落ち着いてくれたことは、我々実務家にとっては非常に歓迎すべき状況です。
コメンテーター(藤木氏):なるほど。ブームが去ったからこそ、実需に基づいた真の社会実装フェーズに入っているのですね。
ピッチの中で「5億円を投じたデータ統合基盤」を非常に謙虚に「地味な技術」とおっしゃっていましたが、このデータのクレンジングと統合の凄さ、他社に対する圧倒的な優位性について、もう少し詳しくご説明いただけますか?
日高氏:ありがとうございます。WebやSNSの業界ではデータドリブンな広告運用などが当たり前ですが、社会インフラである交通・都市計画の分野では、いまだに紙や独自のレガシーシステムが乱立し、データのクレンジングすらできていません。
私たちのプラットフォームは、数万社の交通事業者が吐き出す「フォーマットも更新頻度もバラバラなレガシーデータ」を、自動的に綺麗な統一形式へと変換してSeeMaaS等の上段で扱えるようにする、日本で唯一のインフラ基盤です。このクリーニング技術がなければ、いくら生成AIを活用しようとしても正しい示唆を出すことはできません。私たちは交通データ処理の標準を握る唯一無二の存在として、日本の社会インフラをデータで再構築するための土台を完全に押さえていると自負しています。
コメンテーター(藤木氏):インフラ特有の複雑さを吸収する土台だからこそ、他社が真似できない価値があるのですね。
最後に、計画されている5億円の資金調達についてですが、投資家から見ると、自治体や交通事業者向けの受託(フロー)ビジネスの割合が高く見える懸念があるかと思います。この資金調達を通じて、どのようにストック比率を高め、スケーラブルな収益モデルへと変革していくのか、その成長戦略を教えてください。
日高氏:極めて重要なご指摘です。私たちのビジネスモデルは、導入初期は顧客(自治体や事業者)の個別事情や課題に合わせたコンサルティングや調査から入ります。これは一見フロービジネスですが、そこで顧客のデータ(ICカードやバスの走行GPSなど)を一度私たちの基盤にインテグレート(統合)してしまえば、その後はSeeMaaSの月額利用料やAPI利用料という形で、半自動的にプロダクトのストック収益へと移行するスキームとなっています。
現在、この「初期コンサルからストックプロダクトへ移行する方程式」は完全に出来上がっています。資金調達によって最も強化したいのは、社長である私自身が全国を回っている現在の「営業の属人性」を排除し、仕組み化された方程式を全国の自治体や事業者に高速で横展開するための「セールス人員」と、それを支える「開発体制」の拡充です。これにより、一気にストック比率を引き上げ、スケーラブルな成長を実現します。
コメンテーター(藤木氏):初期導入をコンサルでグリップし、その後自動的にストック収益に昇華させる方程式ができているのは素晴らしいですね。人員強化でその横展開が加速すれば、市場の独占も見えてきそうです。ぜひ日本のインフラの未来を創ってください。応援しています。
日高氏:ありがとうございます。皆様の期待に応えられるよう、15名の精鋭チームと共に、全力で社会実装を推進してまいります。今後ともよろしくお願いします。