私たちは、健康寿命の延伸という社会課題に対し、健常者向けの新たなヘルスケアサービスを開発している会社です。社歴は今年で8年目を迎えており、大阪府立大学の大学発ベンチャーとして大阪を拠点に活動しています。我々の技術のルーツは、大阪市立大学(現・大阪公立大学)の工学部の分析技術にあります。
私たちが提供しているのは、わずか5本から10本程度の髪の毛を送っていただくだけで、体内の必須ミネラルをはじめとする栄養素の摂取量を定量的に評価する毛髪検査サービス「MINE(マイン)」です。
ヘルスケア業界全体の最大のブレイクスルーできない課題は、「人の意識や健康行動がなかなか変わらない」という点にあります。デジタルデバイスで日々ライフログを取るだけでは、人は本質的に動きません。一方で、血液や尿、髪の毛といった「自分自身の身体の一部」から得られた定量的なメッセージを伝えることで、人は初めて「ドキッ」とし、行動変容へ強く促されることになります。私たちは、そのなかでも最も採取が簡単な「髪の毛」に注目しました。
血液や尿、便などは、午前と午後、あるいは前日に食べたものによってデータが大きく変動します。そのため、ある一時点を測る「点の情報」にしかなりません。一方、髪の毛は1ヶ月におおむね1センチメートル伸びるため、数センチメートルの毛髪を分析することで、過去数ヶ月にわたる「線(平均的)の情報」を評価することができます。これにより、その方の普段の平均的な栄養摂取傾向を極めて正確に把握できます。
実は、ミネラルは必須栄養素であるにもかかわらず、現代人の8〜9割が摂取基準を満たしていません。この不足が長期化することで、生活習慣病などの慢性疾患に繋がると言われています。
これまでも毛髪検査自体は50年以上の歴史がありましたが、従来の検査方法では約100本以上の髪の毛を束で切り取る必要があり、ユーザーへの精神的ストレスが大きいこと、また1回あたり約1万円と高額であることが普及の壁となっていました。
私たちは、工学部の高度な微量元素分析技術を活用し、わずか1本から数本の髪の毛で、かつ従来の半額以下のコストで正確に測定できる技術を確立いたしました。
また、本サービスは検査キットのパッケージとデザインさえ変えれば、容易に他社ブランドとして展開できるため、エステサロンや大手企業向けのOEM(相手先ブランドによる生産)提供も行っております。例えば、皆様もよくご存知の Sansan 様の健康支援プログラムなどにも採用いただいております。
安価に測定できること、変動影響がない定量評価であることに加え、もう一つの大きな強みは、「行動変容の成果が目に見えて数値化される」点です。不足している栄養素をサプリメントなどで積極的に摂取したあと、数ヶ月後に再び測定すると、ある程度髪の毛に数値として反映されます。これにより、「自分の健康努力が実を結んでいる」ことが可視化され、ユーザーが健康行動を継続する強力なモチベーションになります。
その第一歩として、昨年度に三菱総合研究所様と共同で、毛髪中のミネラル値から高血圧の早期検知ができないかという臨床研究を約50名を対象に実施いたしました。すでに結果が出ており、現在論文執筆と発表の準備を進めております。
今後は高血圧だけでなく、糖尿病や、特に女性の閉経後にカルシウム代謝が低下することで起こる「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」の早期検知にも繋げていく計画です。骨粗鬆症は自覚症状が出にくく、病院に検査へ行くハードルも高いため、ご家族が母親の髪の毛を数本送ってカルシウム状態をチェックするといった予防介入の形を作ることで、高齢者の骨折や寝たきりの予防に大きく貢献できると考えております。
猫はマグロなどのキャットフードを多く摂取するため、体内にメチル水銀などの有害な水銀が蓄積しやすいというリスクがあります。私たちは猫の毛から水銀蓄積量を測定する技術を実用化し、これを皮切りに、人間と同様に必須ミネラルの過不足を毛髪から評価するペット向けサービスの開発を進めております。
日本の猫の8割以上は雑種の「日本猫」であるため、毛質による測定誤差が少なく、標準化しやすいという特徴があります(犬はチワワとラブラドールなど、犬種による個体差が大きすぎるため、品種別の標準化が必要となります)。このペット領域での毛髪検査サービスは世界初の試みであり、事業推進を加速させるため、現在ペットテックに特化した別会社(スピンアウトベンチャー)の設立準備を進めております。
健康経営、フェムテック、そしてペットテックと、毛髪から得られる「身体の長期ビッグデータ」を活用し、様々なライフサイエンス企業との協業を広げてまいります。ご清聴ありがとうございました。
富山氏(コメンテーター):井上さん、発表ありがとうございました。非常に興味深く聞かせていただきました。「髪の毛で測るため一時的な変動の影響を受けない」という点は、毎月の通院検査の数値変動に悩む身として非常に刺さりました。
質問ですが、まず人間と動物(猫や犬)で毛髪検査の手法は同じもので通用するのでしょうか?
井上氏:ご質問ありがとうございます。人間に関しては国内外の膨大な研究蓄積がありますが、動物に関しては「人間と同様の尺度で測れるか」という検証が必要でした。昨年600匹の猫を対象に研究した結果、猫については人間とほぼ同様の手法で十分に有用なデータが取れることが確認できました。今後は提携大学の獣医学部とも連携して新商品をリリースする予定です。
一方で犬については、チワワとラブラドールレトリバーでは毛の太さや色、毛質が違いすぎ、同じ尺度で比較することが技術的に極めて難しいため、もし展開する場合は「芝犬専用検査」のように犬種を絞って開発していくロードマップになります。そのため、まずは毛質が均一な猫から展開を開始します。
富山氏:なるほど、猫の3頭に1頭が腎臓病という話もありましたし、そうした早期発見ニーズは高そうですね。未病・早期検知という点で、具体的にどのような疾病予防を想定されていますか?
井上氏:三菱総合研究所様と共同で臨床データを取得した「高血圧」が最も近く、一部非常に有意義な発見があったため次へ繋げています。その次は「糖尿病」、そして特に女性向けの「骨粗鬆症」です。骨粗鬆症は自分で検査に行く人が少ないため、ご家族が代理で髪の毛を送って測定するような、ギフト型や家族検診型の予防マーケットを開拓したいと考えております。
富山氏:骨粗鬆症の早期発見は社会的意義も大きいですね。協業や資金調達についてはどのようなニーズがありますか?
井上氏:人間向けの事業拡大における協業(健康経営・フェムテックなど)はもちろんですが、現在スピンアウトを準備している「ペット向け毛髪検査ベンチャー」については、別枠でシード資金の調達活動をメンバーが進めております。ペットテック領域で強力なシナジーを生み出せるパートナー企業様やVCの皆様とぜひ連携したいと考えております。
富山氏:ありがとうございます。エビデンスがしっかり取れれば非常に大きな市場になると思います。期待しております。
井上氏:ありがとうございました。