皆さん、よろしくお願いいたします。株式会社ソーシャルサービス代表取締役会長の白形知津江と申します。私たちは現在、週に3日、9つのプログラム医療機器(SaMD)の開発を行っているヘルスケア・アグテックベンチャーです。本日は、私たちが命を懸けて開発を進めている、産後うつを予防・改善するためのプログラム医療機器(アプリ)についてご紹介させていただきます。現在の開発段階はシード期にあたります。
まず、この事業を立ち上げるに至った私の強い原体験についてお話しさせてください。
私たちの会社では、10年以上前から日本産婦人科医会の公式医者誌の制作を手掛けてまいりました。その中で、重度の障害を持って生まれてきたお子さんたちや、そのご家族を支援する活動を10年以上にわたり続けてきました。医師会と現場を繋ぎ、障害児支援を強化するためのロビー活動や実践的な訪問を重ねる日々でした。
その活動の最中、ある障害児施設の現場で、非常に衝撃的な事実を耳にしました。
「今、施設に入所してくる子どもの中で、生まれながらの先天性障害の子よりも、産まれた後に実の親から受けた虐待によって脳に重いダメージを負い、ヘッドギアや車椅子が必要な体になってしまった『後天的障害児』の数の方が多くなっている」というのです。
さらに悲惨なのは、施設にいる子どもたちは皆、心から母親を愛しており、「ママのところへ帰りたい」と言って家に戻るのですが、帰宅するとさらにひどい虐待を受けて、ボロボロになって施設に舞い戻ってくるという実態があることでした。
この血を吐くような現実に直面し、私は「お母さんたちのメンタルを初期段階で救わなければ、子どもたちの命も救えない」と痛感しました。これが、私たちが医師会と連携して妊産婦のメンタルヘルスケア事業に乗り出した原点です。
実は、日本において「周産期うつ(産後うつ)」は、それまで全く精神疾患の既往歴がない健康な妊産婦さんの「約20%」が発症します。5人に1人という極めて高い確率です。しかし、彼女たちは医療の狭間に置かれており、適切な相談窓口や早期の治療アクセスが存在しない「アンメット・メディカル・ニーズのポケット」に完全に陥ってしまっています。これが、現在の日本における産後うつの極めて深刻な実態です。
この深刻な医療の狭間に対し、私たちは「専門医の代替」となるデジタル治療アプリで解決することを目指しました。
私たちが開発したアプリには、お母さんたちの状態を可視化する心の定点スクリーニング質問に加え、産後うつの主因となる「赤ちゃんに対する理解不足」や「周囲との対人関係のストレス」を取り除くメソッドが詰め込まれています。
特にこだわったのが「認知行動療法(CBT)」のセッション機能です。産後のお母さんたちの多くは「赤ちゃんに母乳をあげたい」と強く希望されるため、抗うつ薬などの薬物療法を嫌う傾向が非常に強いのです。そのため、薬を使わずにメンタルをコントロールできる認知行動療法のデジタル化が極めて有効になります。さらに、自傷や心中といった最悪の事態を防ぐため、高いリスクを検知した際のアラート機能や、自治体・医師が状態を把握できる管理画面などのリスク管理設計を厳重に構築しました。
私たちは臨床の現場や学会と非常に近い距離にいるため、第一線の専門医が行っている高度な個別ケアの手法をそのままアプリのアルゴリズムの中に移植することができました。
この取り組みは、東京都の「第17回 移行医療ハブ(移行ハブ)事業」に認定され、5,000万円の事業費に対して3,000万円の補助金をいただく形で採択されました。
この支援を受け、私たちは精神医学における国内最高峰の研究機関である「国立精神・神経医療研究センター(国精研)」の倫理審査を通し、2年間にわたる医師介入型の本格的な臨床試験を実施してまいりました。
臨床試験の結果、私たちが開発したアプリを使用することで、産後うつの発症リスクを「約10%軽減できる可能性」があることが実証されました。
何よりも特筆すべきは、その「継続率の高さ」です。一般的に、妊娠中は時間的余裕があっても、出産した瞬間にお母さんたちは多忙を極め、スマホアプリなど一切使わなくなってしまいます。しかし私たちのアプリは、国内でも前例がないほど産後のお母さんたちに「使い続けられる」高い継続率(8割以上)と、非常に高いユーザビリティを実証することができました。利用者様からも「本当に救われた」という深い満足の声を多数いただいています。
この圧倒的な継続率の背景には、お母さんたちが直面する「授乳がうまくいかない」「赤ちゃんが泣き止まない」「パートナーとの関係が悪化している」といった「産後の絶対に直面する9つの悩み」に対し、悩みごとに直接アプローチして解決する精緻なコンテンツ設計があります。産後うつの研究に一生を捧げてこられた国立最高峰の先生方の専門的メソッドが、このアプリの細部にまで宿っているからこそ、お母さんたちの心を掴み続けることができるのです。
今後の私たちのロードマップとビジネスモデルについてご説明します。
当初、私たちは医療機器(SaMD)としての単独承認を目指して開発を進めてきました。しかし、日本の医療制度において、新規のデジタル医療機器の承認には「診療報酬点数の有無」や「標準治療ガイドラインの未整備」といった非常に高い壁が存在します。ベンチャーがここを真っ向から突破するには、膨大な時間と資金が必要です。
そこで私たちは、来年から戦略を大きく「方向転換」することにいたしました。
医療機器としての薬事承認を最終目標に据えつつ、まずは足元のマネタイズと普及を確実にするため、全国の「自治体が実施する産後ケア事業・伴走型相談支援事業の公費予算」を狙いに行きます。
現在、国の方針で子ども・子育て支援に対する地方交付金や予算が手厚く配分されています。しかし、自治体が把握できているハイリスク妊産婦は全体のわずか「7%」にすぎず、残りの「93%」に対してはリソース不足により何のケアもできていないのが実態です。この93%の空白地帯を埋める「自治体代替ツール」として、私たちのアプリを自治体に一括導入していただきます。
ビジネスモデルは二段構成です。
第一ステージ(足元)では、自治体にシステムとして契約(公費導入)いただき、地域の妊産婦さんたちには「無料」でスマホにネイティブアプリをダウンロードして使っていただきます。
第二ステージでは、ヘルスケアアプリとして自治体での導入実績とデータを積み上げた上で、QMS(医療機器品質マネジメントシステム)に準拠してガチガチに作り込んできた医療機器としての強みを活かし、医療機関での医師の処方コード経由で使えるプログラム医療機器として「保険償還(保険適用)」を獲得します。
母子の自殺や無理心中リスクが最も高まるのは「生後4ヶ月」までの緊急期であり、産後ケア事業の枠組みとしては「1年間」の継続ケアが推奨されています。この最も危険な1年間を、私たちのアプリで24時間体制で見守り、悲劇を未然に防ぐインフラを構築します。
私たちのコアチームは現在、私を含めて、医師でありAI解析・工学の専門資格を持つメンバー、そして事務局を統括するメンバーのわずか3名で運営しています。しかし、私たちの背後には、日本産婦人科医会や国精研をはじめとする、日本の周産期医療と精神医学を牽引するトップクラスの指導医の先生方が強力なバックアップ体制を敷いてくださっています。
日本の産後うつという巨大な社会課題をデジタルとサイエンスの力で解決し、お母さんと子どもたちの命を救うインフラを共に広げてくださる自治体関係者様、そしてパートナーとなってくださる投資家の皆様からのご連絡を心よりお待ちしております。ありがとうございました。
コメンテーター(福谷氏):白形さん、素晴らしいプレゼンテーションをありがとうございました。私も妻と子どもがおりますので、産前産後の慌ただしさや精神的な負荷の大きさについては、身をもって通ってきた道だと実感しております。当時は必死で、夫として妻のために十分なサポートができていたかと言われると、正直何もできていなかったと反省するばかりです。それだけに、このようなアプリがお母さんたちの孤立を防ぎ、救いとなることは本当に社会的に意義深いサービスだと強く感じます。
今後のビジネス展開についてお聞きしたいのですが、具体的にどのようなステップでマネタイズを行い、事業を広げていかれるのか、ビジネスモデルの詳細を教えていただけますか。
白形氏:ご質問ありがとうございます。マネタイズは二段階の戦略で構築しています。
第一のステップ(ファーストステージ)は、国が予算化している自治体の「子ども子育て支援」や「伴走型相談支援」の公費予算を獲得するモデルです。自治体に公費で導入していただき、対象となる地域の妊産婦さんはスマートフォンにネイティブアプリとしてダウンロードし、自治体から発行されるコードを入力することで、自己負担「無料」で利用できる仕組みです。
第二のステップ(セカンドステージ)は、医療機器(SaMD)として医療機関に導入していただき、医師の診断・処方のもとで利用され、最終的に国の「保険適用(保険償還)」による診療報酬から売上を得るビジネスモデルです。この二段構えで事業を展開します。
福谷氏:なるほど。お母さん自身が自己負担でアプリを買うのではなく、まずは自治体が公費で買い上げて住民に無料提供し、将来的には医師から処方されて保険から支払われる形ですね。
ただ、産後うつの当事者は、自分自身がうつ状態に陥っていることに自覚がなかったり、アプリをわざわざ探してインストールする気力すらなかったりするケースが多いと思います。本当にケアが必要な「ハイリスク層」のお母さんたちに、このアプリを確実に届けて使ってもらうための導入動線や仕掛けはどのように設計されていますでしょうか。
白形氏:非常に重要なご指摘です。まず、お母さんたちが自ら「私はうつだからこのアプリを使おう」と思って導入することはありません。
そのため私たちは、お母さんたちが必ず直面する「赤ちゃんが泣き止まない」「おっぱいが出ない」「旦那と喧嘩してイライラする」といった「具体的な9つのリアルな悩み」を解決するための実用的なお悩み解決アプリとして導入させます。入り口を「うつ治療」にするのではなく、日々の育児に直結するコンテンツとしてアプローチするため、現在行った臨床試験でも8割以上という非常に高い継続率を叩き出すことができています。
また、自治体の保健師さんが行う乳幼児訪問の際、対面で「このアプリをスマホに入れてみてね」と直接推奨していただく強固なリアル動線を設計します。自治体が把握できている7%の超ハイリスク層だけでなく、見落とされがちな93%の潜在的リスク層に対し、自治体公認の公式インフラとしてアプローチすることで、自然な導入を促します。
福谷氏:なるほど、悩みに寄り添う実用アプリとして入り口を広げ、自治体のリアルな訪問支援と紐付けることで確実にハイリスク層へリーチするわけですね。
最後に、このアプリはお母さんが産後いつからいつまで使うことを想定しているのでしょうか。利用期間のイメージを教えてください。
白形氏:医療データ上、母子の自殺や無理心中などの最も痛ましい悲劇が発生するのは「生後4ヶ月以内」が最も多いことが分かっています。産後うつの発症自体は産後1〜2ヶ月から始まりますが、そこから心身の疲労が限界に達して命に関わる事態になるのが4ヶ月目なのです。ここが最大の「緊急警戒期」です。
自治体の産後ケア事業の枠組みは「産後1年間」ですので、理想としては産後1年間を通じて使っていただくことがベストですが、まずは最初の最も危険な4ヶ月間の緊急期をこのアプリで徹底的に見守り、支えきることを最優先のターゲット期間として設計しています。
福谷氏:よく分かりました。生後4ヶ月の最も危険な時期をデジタルで寄り添い、救い上げる。本当に尊い事業だと思います。一刻も早く全国の自治体や必要な方の元へこのサービスが広がることを心から応援しております。頑張ってください。
白形氏:ありがとうございます。一人でも多くのお母さんと赤ちゃんの命を救うため、全力で事業を推進してまいります。