私自身のバックグラウンドを少し紹介させてください。私はアフリカ現地で起業して今年で12年目を迎えます。その前は、コンサルティング会社のアクセンチュアで8年半働いておりました。その後、2014年にアフリカのウガンダで起業しました。ウガンダにおいて初めて、現金代引き(COD)で全国をカバーする物流ネットワーク会社を立ち上げ、泥臭い現地オペレーションを徹底的に仕組み化しました。この事業は2020年にヤマハ発動機様に売却いたしました。その後、インドで1年半ほど別の事業を経験した後に立ち上げたのが、現在のパスビーイングです。
実に、世界の農地の69%以上が中等度から重度の「土壌劣化(劣化土壌)」に陥っています。特にグローバルサウス(アフリカや中南米)の状況は深刻です。日本のように商業農業の歴史が古く土壌改良の伝統がある国と違い、アフリカでは商業農業の導入が化学肥料よりも後に始まったため、伝統的な土壌ケアの習慣や政策がなく、土壌の質は世界的にも非常に低い水準にあります。しかし裏を返せば、これは土壌改良による伸び代(ポテンシャル)が極めて高いことを意味しています。
バイオ炭の効果をシンプルに言えば、農地の収量が上がることです。さらに、化学肥料の施肥効果が高まるため、少ない化学肥料で十分に作物を育てることが可能になります。また、食料の安定供給にも大きく貢献します。例えば、世界中が直面しているカカオ価格の急騰(過去2年で6倍)は、主要産地である西アフリカの天候不順が原因ですが、その根底には土壌の健全性が著しく低下し、気候変動への耐性が失われていることがあります。バイオ炭で土壌を健康に保つことで、こうした気候リスクに強い農業を実現できます。
北米や欧州、日本などでは、すでに補助金やリスクマネーが投入されてバイオ炭事業が始まっていますが、最もバイオ炭を必要とし、かつ土壌改良による収穫増加のメリットが大きいアフリカや中南米では、まだ手つかずの状況です。私たちは、過去18ヶ月間で主にアフリカ10カ国において130カ所以上の実証ポイントを回り、すでに12社とMOE(覚書)を締結し、4カ国でプロジェクトの実証(PoC)を開始しています。
「本当にアフリカで儲かるのか」という質問をよく受けます。実績値と現在の市場価格をもとに見積もると、約20万ドル(約3,000万円)の小規模なワンプロジェクトであっても、9年間で初期投資の11倍のキャッシュを回収でき、IRR(内部収益率)は77%に達します。極めて保守的に見立てても、3倍以上の投資回収は十分に可能であると試算しています。
この事業の最大の参入障壁は、技術そのものではなく、アフリカの複雑な農村地域における「泥臭い現場のオペレーション」にあります。これを仕組み化し、ノウハウとして横展開できるプレイヤーが世界中にほぼいません。私自身がウガンダで「絶対に不可能」と言われた全国規模の代引き物流網を作り上げ、ヤマハ発動機様との提携を通じてシステム化した経験とノウハウこそが、私たちの他社には真似できないコアコンピタンスです。
また、資金調達の枠組みを超えた事業提携も歓迎しています。特にアフリカやラテンアメリカなどから農産物を直接輸入している事業会社様に対しては、サプライチェーンの安定化や気候変動対策(サプライチェーン内のデカーボナイゼーション)として、バイオ炭の導入が強力なシナジーを生み出します。実際、多くのグローバル食品メーカーや商社様とのお話が進んでいます。私たちの活動に興味を持っていただける方からのご連絡をお待ちしております。
コメンテーター(くべるもり):非常に素晴らしいプレゼンテーションをありがとうございました。環境問題、貧困問題、そして食料問題を同時に解決できる極めて社会的意義の高いビジネスモデルだと感じました。2点ご質問させてください。1点目は、現地で定携農家さんと一緒にバイオ炭を生産するとのことですが、このバイオ炭の品質管理はどの程度難しいものなのでしょうか。現地で安定した品質の炭を作る難易度について教えてください。2点目は、日本企業と提携する際のメリットについてです。農産物の直接輸入を行っている企業以外にも、どのような形で日本企業とのシナジーを描いていますか。
伊藤淳氏:ご質問ありがとうございます。
1点目の品質管理についてですが、基本的には化石燃料以外の有機物(農業残渣など)を炭化したものを広くバイオ炭と呼びます。日本では最近、高度な技術を用いた「高機能バイオ炭」の研究も進んでいますが、私たちがアフリカの現場で導入しているのは、あえて非常に「簡易的なインダストリアル製法」です。アフリカの農村には電気や水といった基本的なインフラ制限があるため、ハイテクな設備を持ち込んでも稼働しません。現地で調達可能なバイオマスを、現地の人々が無理なく運用できるシンプルなプロセスに設計し、その中でカーボンクレジットの基準を満たす品質を担保する仕組みを構築しています。
2点目の日本企業との連携ですが、この1年間で約200社もの企業とお話をさせていただきました。その中で面白い発見だったのが、一見、農業や食品とは全く関係のない本業(例えば自動車関連や製造業など)を行っている日本の大企業であっても、グループ会社や子会社の中に「農産物の調達や輸入、加工」を行っている事業体が実は隠れているケースが非常に多いという点です。本社の経営企画やサステナビリティ部門の方にお話をさせていただくと、「実はグループ内にカカオやコーヒーを扱っている子会社がある」とご紹介いただき、話が進むケースが多々あります。ですので、どのような領域の企業様であっても、グループ全体のサプライチェーンを見直していただき、海外調達の接点があればぜひご紹介をいただけると嬉しいです。