近年、様々なシェアリングサービスが世の中に浸透し、人々の生活は非常に便利でスピーディーになりました。しかし、「早さ」という観点において、どうしても未だに大きな宿題が残っているのが「医療」の業界です。医療は機械相手ではなく、人それぞれに合わせた丁寧な対応が必要なため時間がかかるのはやむを得ない部分もあります。しかし、もし「治療が始まる前」の段階で何ヶ月も待たされているとしたらどうでしょうか。
実は現在、大型の医療機器であるMRIを撮影しようとすると、検査までに数ヶ月待たされてしまうという事態が頻発しています。MRIは患者さんの内部状態が分からない時に磁力の力を使って病因を解き明かし、治療方針を決めるための極めて重要な機械です。治療開始前にこれほど高い医療ニーズがあるにもかかわらず、なぜ数ヶ月も待たなければならないのでしょうか。
日本は世界で最もMRIが普及している国であり、インフラ環境としては極めて恵まれています。それにもかかわらず検査待ちが発生する理由は、MRIを保有する病院が「混んでいる病院(3割)」と「空いている病院(7割)」に二極化しているからです。500床を超えるような大病院や大学病院では紹介患者が殺到し、撮影までに1〜3ヶ月待ちというフラストレーションを整形外科医などの現場の医師が抱えています。一方で、地域でMRIを管理する放射線技師や経営層は、撮影枠が空いているにもかかわらず稼働率(撮影件数)が上がらないという経営的なペインを抱えています。
この両者をマッチングすることができれば、MRIの撮影待ち、ひいては治療が進まないという医療界の大きな課題を解決できる。そう考えて私たちが開発したのが、大型医療機器シェアリングサービス「Seamr(シームル)」です。
医療制度上、病院間での医療機器の共同利用や貸し借りは認められています。しかし、これまでの実態は、紙のパンフレットや電話、FAXがメインのアナログなやり取りでした。最適な施設を探し出し、空き状況を確認して予約を完了するまでに15分から30分もの時間を費やしていたのです。
「Seamr」を導入いただくことで、このアナログなフローをデジタルで一元化できます。複数の医療機関の空き状況から最適な病院の機器を瞬時に探し出し、1時間単位の空き枠からわずか30秒で予約を完結させることが可能です。患者の基本情報や撮影時の注意事項、指示書などもすべてWebシステム上で入力・確認でき、出力された予約票を患者様に渡すだけで手続きが完了します。患者様はその予約票を持って撮影側の病院に行くだけでスムーズに検査を受けることができます。
MRIを撮影すると、診療報酬として1回あたり13,300円の保険請求が可能です。この報酬を「診察側の病院(依頼元)」「撮影側の病院(依頼先)」「Seamr(プラットフォーム)」の3者で按分することで、全員が潤うエコシステムを構築しています。
「診察側(依頼元)のインセンティブが少ないのではないか」と懸念されるかもしれませんが、医療保険の仕組み上、診察側の病院はMRI撮影料のほかに「コンピュータ画像診断料」や「電子画像管理加算」、さらに「初再診料」を請求することができます。SeamrはMRI撮影料(13,300円)のみを按分対象とするため、依頼する診察側のクリニックにも十分に魅力的な経済的メリットが残ります。
これにより、大病院は院内の検査リソースが超過して診察が滞る事態を防ぎ、外部委託によって速やかに治療を進めてマネタイズできます。一方で、MRIを持たない小規模クリニックは、患者を大病院に完全に紹介・リリースしてしまって戻ってこなくなる(患者の流出)リスクを回避し、撮影機能だけを外部にアウトソーシングしながら自院で患者の治療を継続し、安定的な経営収益を維持することができます。
トラクションとしては、今年3月までに筑波地域での実証実験を無事に終了しました。4月から本格的な営業活動を開始し、わずか3ヶ月で既に15件の病院にシステムを導入いただいています。さらに、今年度中には秋田大学の整形外科教室との共同研究を行うことが決定しており、Seamrの導入によって院内外のMRI撮影効率や患者の治療プロセスがどのように改善されたかを学術的なエビデンスとして立証していく予定です。
私たちのビジネスモデルは、初期フェーズではMRI撮影料の10%(1マッチングあたり1,330円)を手数料としていただくマッチングモデルです。しかし、中長期的にはこのシェアリングを通じて蓄積されたデータを活かし、医師が「この病気が疑わしい」と判断した際に最適な検査から診断結果のアウトプットまでをシームレスに行える「診断のOS」へとプロダクトを進化させ、サブスクリプション型のビジネスモデルへと移行して収益性をさらに高めていく計画です。
この事業は、長年製薬会社のMRとして医療現場の最前線を見てきた私と、都内の大学病院で放射線科の専門知識を持つ白井、そしてシステム会社で開発マネジメントを担ってきた宮崎という、医療とテクノロジーの双方に精通した3名のチームだからこそ実現できると確信しています。医療従事者の皆様とともに、シームレスな医療アクセスを実現するインフラを作っていきます。ぜひ応援いただけますと幸いです。
コメンテーター(富山氏):佐野さん、プレゼンテーションありがとうございました。実は私、今年まさにこの課題の「被害者」になりまして。小さなクリニックを受診した際、MRIが必要だと言われたのですが、そのクリニックには設備がなく他の病院を紹介されたんです。ところが予約が取れたのがなんと2週間後で、検査を受ける頃には痛みがほぼ治りかけているという、非常に歯痒い思いをしました。身をもってこの課題の深刻さを実感しています。
そこで質問なのですが、病院間で連携して撮影を行うにあたり、撮影した画像データの共有やカルテとの連携はどのように行われているのでしょうか?
佐野氏:富山さん、実体験に基づく貴重なご指摘をありがとうございます。まさにそうした治療までのタイムラグを無くすことこそが私たちの使命です。
画像データの共有についてですが、現状の医療現場では撮影した画像データをCD-Rに書き込んで患者様に手渡すか、郵送するという方法が一般的です。私たちのサービスも第一段階としてはこの既存のフローを踏襲しています。というのも、Webブラウザ上で直接画像データを閲覧・共有する機能をシステムに組み込もうとすると、システム自体が「医療機器」としての法的申請・承認の対象になってしまうためです。そのため、まずは承認ハードルの低い「シェアリングと予約のマッチング」で迅速に市場に普及させ、次のステップとして医療機器申請の準備を進め、画像共有を含む機能拡大を図るという戦略をとっています。
コメンテーター(富山氏):なるほど、医療法上の規制を考慮してまずは予約から入るのですね。もし提携先が増えれば、東京や横浜のような都市部なら「午前中に近くの病院で撮影し、午後には元のクリニックに戻って診察を受ける」といった即日対応も十分に可能になりますよね。
佐野氏:はい、まさにおっしゃる通りです。その日のうちに検査と診断を終えるフローは技術的にも運用上も十分に可能です。
コメンテーター(富山氏):大手電子カルテメーカーや遠隔読影の仕組みなど、医療DXの動きは以前からありますが、現状の連携状況や、今後このネットワークを爆発的に広げていくための課題や施策はどう考えていますか?
佐野氏:コロナ禍を経て医療業界のデジタル化は進みつつありますが、やはりまだ自前主義の病院が多く、効率化への心理的抵抗があるのも事実です。そこで私たちは、既存の医療制度や商習慣を崩さずに、医療従事者の手間に配慮したDXからアプローチしています。
爆発的な普及に向けた施策としては、製薬会社とのコラボレーションを計画しています。最近は骨粗鬆症の治療薬や皮膚科の特殊な新薬など、「特定の大型機器で撮影し、画像による確定診断を行わなければ投薬できない」という製薬会社の医薬品が増えています。私のMR時代のネットワークを活かし、製薬会社から処方元の医師に対して「Seamrを使えば近隣で即日検査・処方が可能です」とアプローチしてもらうことで、投薬機会に紐づいた検査需要を呼び込み、一気にマッチング件数を増やせるシステムを構築していきます。
コメンテーター(富山氏):製薬会社とのアライアンスは非常に強力ですね。私のような被害者を減らすためにも、ぜひこのサービスを全国に広げていただきたいです。応援しています。
佐野氏:ありがとうございます。皆様の期待に応えられるよう、しっかりと事業を成長させてまいります。