株式会社TSKの孫恩喆と申します。弊社は、京都大学化学研究所の中村正先生が約25年にわたり蓄積してきた「鉄触媒技術」の社会実装および事業化を目指す、京都大学発の科学技術(ディープテック)ベンチャーです。
従来の精密化学合成やディスプレイ用の機能性材料の製造には、パラジウムなどの希少なレアメタル触媒が不可欠でした。しかし、レアメタルはロシアや南アフリカなどの一部地域に資源が偏在しており、地政学的リスク(供給不安)が極めて高いほか、採掘時の深刻な環境汚染も課題となっています。
これに対し、地球上に豊富に存在する「鉄」を触媒として機能させることができれば、コスト、供給安定性、環境負荷のすべてを劇的に改善できます。弊社は、この鉄触媒を駆使し、新規化合物の開発・製造・販売と、既存プロセスのグリーン化(Green Innovation)を推進しています。
事業の1つ目の柱は、有機EL(OLED)ディスプレイに使用されるEL材料・デバイス用の新規化学素材の開発です。特に性能が劣っている青色発光材料の性能改善を狙い、パネルメーカー各社と強固なパイプラインを構築してサンプル評価を進めています。
しかし、ディスプレイ材料は実用化までに非常に長い期間を要するため、弊社は第2の柱として、同技術から派生した高付加価値なバイオシミュラント(農業用植物生理活性物質)である「鉄フルボ酸」の製造・販売事業を確立いたしました。
鉄フルボ酸は、通常は産業廃棄物として処分費用を払って廃棄されている林業の「樹皮(バーク)」や廃木材を原料としています。弊社は、独自の鉄触媒技術を用い、有機溶剤を一切使わず水の中だけで反応させ、ろ過するだけで高濃度のフルボ酸を短時間かつ大量に生産するアップサイクルプロセスを開発しました。
このフルボ酸は、植物の根を活性化させて肥料の吸収効率を飛躍的に高める効果があり、将来的には化学肥料の使用量を大幅に削減することが可能です。約2年間にわたる栽培実験の結果、ニンニクやニンジンなどの作物が通常の2倍以上の大きさに成長するほか、葉の勢いが増し、害虫被害が減少するなどの劇的な効果を確認しています。
すでに今年3月から販売を開始しており、韓国のバイオ企業へ300kgを輸出したほか、国内の大型農園へもテスト導入を進めています。今後はマーケティングを強化し、現在の数十kg規模の販売から、年内には月数百kgレベルの供給体制へとスケールアップさせる計画です。
弊社は2023年9月にシリーズAラウンドの調達を終え、現在は研究員5名を含む体制で開発を加速しています。化学は時間とコストがかかるディープテック領域であるため、年内(年末まで)に1.5億円規模の追加資金調達を計画しております。また、鉄フルボ酸の普及に向けて、国内外の大型農園や、従来フルボ酸を輸入に依存していた大手肥料会社様とのパートナーシップを求めています。地球に優しい科学で一次産業と最先端ディスプレイ産業を支える弊社の取り組みに、ぜひご支援とご連携をお願いいたします。
コメンテーター(富山氏):孫さん、非常に明快で熱意のあるプレゼンテーションをありがとうございました。大学発ベンチャーとして非常に高度なディープテック領域を研究されていることがよく理解できました。この「鉄触媒」から生まれた「鉄フルボ酸」についてご質問ですが、販売価格や市場での競争力について教えていただけますか。
孫恩喆氏:ご質問ありがとうございます。現在、弊社の高濃度鉄フルボ酸は1kgあたり6,000円で販売しております。製品の有効成分の「濃度」ベースで比較した場合、海外からの輸入品に比べて極めて安価で高品質であると自負しております。
コメンテーター(富山氏):実家が農家なので実感としてわかるのですが、農家の視点から見ると「農業資材で1kg 6,000円」というのは、正直なところやや高価な部類に入るのではないかと思います。この価格に対する農家へのアプローチや普及の工夫はどのように考えていますか。
孫恩喆氏:おっしゃる通り、一般の農家様が単体で日常的に使う資材としては、6,000円という価格はハードルが高く感じられると思います。そのため、弊社のフルボ酸はそのまま撒くのではなく、何百倍にも水で薄めて使う高濃度の原液として提供しています。また、単体販売だけでなく、他の肥料や有機堆肥に「鉄フルボ酸を少量添加した高付加価値肥料」としてOEM供給し、肥料会社を通じて農家様が手に取りやすい価格帯で広く流通させるB2Bのビジネスモデルも同時に構築しています。
コメンテーター(富山氏):なるほど、原液として薄めて使うことや、既存の肥料に混ぜて付加価値を乗せる形であれば、農家も導入しやすくなりますね。ニンジンの大きさが倍になるなどの目に見える効果があるのは魅力的です。具体的には、今後どのような企業とどのような連携を深めていきたいですか。
孫恩喆氏:まずは現在進めているような大型農園での直接評価および販売を広げてまいります。加えて、現在フルボ酸を海外から輸入している肥料商社や、バイオシミュラント素材を取り入れて新製品を開発したい肥料メーカー様をターゲットとし、B2Bでの原料供給・共同開発パートナーシップを強めていきたいと考えています。
コメンテーター(富山氏):ありがとうございます。年末までに1.5億円の資金調達を計画されているとのこと、ディープテックはスケールするまでに開発資金が必要ですが、この技術がディスプレイだけでなく第一次産業である農業を救う可能性を秘めているのは素晴らしいですね。応援しております。
孫恩喆氏:ありがとうございます。研究成果をしっかりと事業成果に変え、社会と環境に貢献してまいります。